東京家庭裁判所 昭和28年(少イ)19号 判決 1954年4月13日
本籍 群馬県○○郡○○村○○番地
住居 東京都○○区○○○アパート内
職業 なし
被告人 石○○○江
昭和九年一月○日生
主文
被告人を懲役三月に処する。
但しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告人は昭和二十七年九月五日頃から同年十一月十日頃迄の間東京都○○区○○○アパート内自室に住込ませた満十八才にならない○山○子こと○藤○子(昭和十一年四月二十二日生)をして附近の東京ホテル、ホテル田園等に於て殆んど連日に亘り不特定の遊客多数を相手として売春させ、その報酬中約四割位を取得し以て児童に淫行させたものである。
右判示事実は○藤○子に係る身上調査に関する照会の回答書、被告人及び○藤○子、金○○、○里○子、○上○子に対する司法警察員作成の各供述調書、被告人の検察官に対する供述調書の各記載ならびに被告人の当公廷における供述を綜合してこれを認める。
本件については公訴提起当時被告人が成人たる年令に達していなかつたので少年法第三十七条に照して見ると、果して裁判権が家庭裁判所にあるのかどうか疑義をはさむ余地がないでもない、しかし同法において同法第三十七条所定の如き少年の福祉を害する刑事々件を家庭裁判所の管轄に属せしめた趣旨を考えると少年たる被告人のこの種事件を特に除外すべき理由は毫も見出し得ない従つて少年法第三十七条に「成人の事件」としたのは通常成人において起り得る事件という程度の趣旨に解すべきだと考える。殊にかく解することによつてのみ本件の場合の如く事件繋属後成人に達した場合にも何等の不都合を生じない。即ち当裁判所はこの点について積極に解するものである。
前示判示行為は法律に照すと児童福祉法第三十四条第一項第六号同第六十条に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、なほ情状に鑑み刑の執行を猶予するを相当と認め刑法第二十五条に従い三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用し被告人の負担とすることとし主文の如く判決する。
註 少年が犯した少年法第三十七条の罪について家庭裁判所に管轄権ありやが、従前問題とされて来た。家庭局としては、同条の文理解釈上、消極的な見解をとつているところであるが(昭和二六、三、二九家庭甲第四七号前橋家裁所長あて、家庭局長回答参照)、このほど、東京家裁において、積極説を表明した判決があつたので、ここに掲載して御参考に供する次第である。